逆Y字棟
神奈川県川崎市幸区河原町 河原町団地
並び立つ高層ビルの裾が階段状に広がっている。その裾の部分には真っ白な四角い箱がリズミカルに並び、上層階部分は舟型をしたベランダの底が整列して飛ぶ飛行艇の船団のように見えて美しい。河原町団地の中央に建つ逆Yの字形の住宅棟は、団地を代表するシンボル的存在だ。
その特徴的な外観とともに、斬新なデザインで構築された内部空間は、「近未来的」という形容とともに紹介されることが多い。その広場のまん中に立つと、階段状に覆い被さった各階の廊下が劇場かスタジアムの観客席のようだ。見上げると、太い梁の隙間から青い空が見える。
大谷幸夫の設計で昭和47年(1972)に第一期の住宅棟が建った。40年以上経った今でもそのデザイン的魅力は失われていない。
しかし、暗い。白亜の外観が真っ青な空にキラキラと輝いて見えるだけに、内部の暗さが余計に際立って感じられてしまう。しかも、現在は落下物等の危険防止のため広場の利用は禁じられており、現役の建物でありながら廃墟感が漂っている。
昔、映画「ブレードランナー」(Ridley Scott監督、1982)を観た時に、暗く猥雑に表現された未来都市の姿に愕然としたのだったが、改めてそのことが思い出される景色だった。