特攻平和観音堂
東京都世田谷区下馬4-9-4 世田谷山観音寺
この椅子には誰が座るのだろう。
境内の奥にひっそりと眠る特攻隊の慰霊碑に向かい合って、一脚の椅子が置かれている。骨だけになったその姿は、鎮魂のために費やされた永い時間を物語っているかのようだ。
戦後70年近い月日が流れ、生き残った人たちも年老いた。訪れる人たちはここに静かに座り、若くして散った友と過ごした遠い昔に思いを馳せて瞑目するのだろう。もしかしたら、既に鬼籍に入った仲間が、訪ねてくることもあるのかもしれない。時を越えて交わされるのは憂国の語らいか、青春の思い出を紡ぐバカ話なのか。すべての言葉を封じ込める結界がここには張られているような気がした。
向かって左側の大きな碑は、終戦後の8月19日に、満州に侵攻したソ連軍に対して特攻攻撃を敢行した「神州不滅特別攻撃隊」の慰霊碑だ。その経緯を記した碑文が胸を打つ。終戦直後の満州の絶望的な状況を思うと、なまじな感想を口にするのも憚られ、言葉を失ってただ立ち尽くすばかりだ。
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