犬島精錬所跡
岡山県岡山市東区犬島327-5
犬島精錬所が建てられたのは明治42年(1909)。それがたった10年で閉じられ廃墟になった。林立する煙突の一部は崩れかけ、随所に使用されているカラミ煉瓦の黒々とした色が、戦で焼け落ちた城跡をイメージさせる。何世紀も前に滅びた文明の遺跡であるかのような印象だ。
敷地の一番奥に眠る発電所跡は、中世のキリスト教会のように見える。天を突く煙突がゴシック建築の塔のように高みにおわす神の存在を示している。それも異教徒によって焼かれてしまったのか。
幾多の宗教勢力がせめぎ合い、繁栄と滅亡の歴史を繰り返した地中海のどこかの島にもこんな遺蹟が眠っているだろうか。そんな思いが頭をよぎる。
この風景を見て宮崎駿監督の映画「天空の城ラピュタ」(1986)を想起する人もいるようだ。
遺構は平成19年(2007)に経済産業省が選定した「近代化産業遺産群33」にリストアップされているけれど、現地では歴史的な内容について詳しく説明されたものを見付けることができなかった。それがいろいろな想像をかき立てる。ある意味、島内に展開される数々のアート作品よりもアートっぽい存在と言えるかもしれない。