ムジナ坂
東京都小金井市中町1-13
「土地の人はなぜそこが『はけ』と呼ばれるかを知らない。」
大岡昇平の「武蔵野夫人」は、こんな書き出しで始まる。大岡は昭和23年(1948)の1月から11月まで、小金井のハケにあるムジナ坂に近い富永家に寄寓してこの小説の構想を練ったという。作品の中にも書かれた「南向きの門」が、今もハケの道沿いに残っている。
学生時代に読んだときには「…夫が愛撫の際彼女の耳を噛む癖が妙に気になりだした…」などという文章に目がいってハケの方には気が回らなかったが、今読み返してみると野川周辺を舞台にした武蔵野の風物がよく描かれている。独歩の武蔵野よりも身近で親近感のある風景だ。
作品が発表されたのは今から半世紀以上前の昭和25年(1950)。大岡もすでに鬼籍の人となり、今では「武蔵野夫人」を読む人も少なくなったことだろう。
「今の人はなぜ『はけ』が広く知られているのかを知らない。」