生き別れ狛犬
東京都豊島区目白5-7-14 天祖神社
台の上で尻尾を振り上げる勇ましい姿の狛犬(獅子)の足元で、子獅子が途方に暮れている。母獅子がどんなに励ましても、きれいに成形された石の台には階段はおろか、爪を掛けて攀じ登るようなわずかな突起もない。
境内に建つ由来碑によれば、神社の創建は文政11年(1810年)頃に遡るが、戦災で廃墟となったのち、昭和42年(1967)に再建。その後、山手通りの拡幅により縮小され、平成10年(1998)に現在の形になったという。
狛犬がいつの時代のものかはわからないが、おそらく戦災で獅子山を失い、残った獅子だけを取り出して狛犬の形に再建したのだろう。その結果、子獅子は母のもとに帰る道を絶たれ、生き別れとなってしまった。
神田明神の石獅子は、関東大震災で子獅子を失ったために、現在は二代目(養子?)が獅子山を登ろうと奮闘している。それに比べれば親子が無事であるだけでも良しとするべきなのかもしれないが、再建した時に、もう少し何とか考えてあげられなかったものだろうか。
母を見上げる子どもの顔が、こちらの思い込みとはわかっていても、とても悲しそうに見えた。