きみちゃんの像
東京都麻布十番2-3 パティオ十番
子どもの頃は、「赤い靴」の歌が怖かった。異人さんは人さらいなのだ。外国に連れていかれたら、もう一生家には帰れないと思っていた。サーカスに売られたピノキオや、人買いにさらわれる安寿と厨子王などの物語を見聞きしたせいかもしれない。
それでも、生きてさえいればいつかは別れた親兄弟に会える日が来るかもしれない。近年発見された野口雨情の草稿には、「異人さんに たのんで 帰って来(こ)」という歌詞が書かれていたそうだ。
しかし女の子は帰って来なかった。
一説には、「赤い靴」にはモデルがいて、その少女は外国へは行かず、日本の孤児院で亡くなったと言われている。
少女の名はきみちゃん。静岡に生まれ、母親と渡った函館で外国人宣教師の養女となったが、病弱だったため帰国する宣教師には同行できず、麻布永坂町の孤児院で亡くなったというのだ。異人さんの国へは行かなかったけれど、母のもとに帰ることもできず、一人寂しく異国の地(東京)に眠っている。
その孤児院跡からほど近い麻布十番商店街に、少女の像が建っている。