さくらそう水門
埼玉県朝霞市下内間木地先(さいたま市桜区大字関字秋ヶ瀬付近)
朝霞水門からさらに上流に走ると、対岸にも同じように秘密基地めいた水門が見えてくる。力強い朝霞水門を地球防衛軍の基地とするならば、丸みを帯びたそのデザインは、宇宙からの侵略者の前線基地のようだ。
この水門には「さくらそう水門」という、およそその容姿には似合わないかわいらしいひらがな名前がついている。というのも、この水門の役割は、その内側にあるサクラソウ自生地を護ることにあるからだ。
サクラソウの生育には、「たびたび氾濫する」荒川の環境が適していたのだという。洪水によって運ばれてきた養分の豊富な土と湿った土地が、長年にわたってサクラソウを育ててきた。ところが、われわれが荒川放水路を掘削し、スーパー堤防を築いて洪水と戦ってきたことによって、サクラソウは生育地を奪われ絶滅寸前に追い込まれてしまった。
鴨川河口に位置するさくらそう水門は、上流側の昭和水門および二つの水門の間にある荒川第一調節池(彩湖)と連繋して、荒川及び鴨川の増水時には、サクラソウ自生地が適度に冠水するように開閉操作される。天空の城ラピュタの屋上庭園に住むロボットのように、ごつい身なりに似合わず花を愛する心優しい水門なのだ。