池上本門寺
東京都大田区池上1-1-1
何度も読み返す本というのは、そう多くはない。だから本は図書館で借りればいいと言う人もいるけれど、わたしは一度しか読まないとわかっていても本を買って、家中を本だらけにして困っている。
幸田露伴の「五重塔」は、そんな中でも繰り返し読み返す数少ない本の一つだ。岩波文庫で100頁足らずだが、旧字を使った文語調の文章はすらすら読めるというものではない。それでものっそり十兵衛をめぐる人物描写や夜叉が飛びまわる嵐の夜の場面は、何度読んでもぐいぐいと引き込まれるものを感じて、読後は深い満足感に包まれる。
小説のモデルとなった谷中の五重塔は、惜しくも昭和32年(1957)に放火によって焼けてしまったが、露伴の墓のある池上本門寺には関東最古(慶長12年(1607)建立)と言われる五重塔が今も健在だ。