2003年8月23日(土)

車返団地入口の常夜燈

東京都府中市白糸台3-10

常夜燈

日が暮れて暗闇の中を歩いている。道の先にぽつんと見える電灯の輪の中に突然人影が現れて、はじめて、自分の前を歩いていた人がいたことを知る。しかし、彼は光の輪をはずれてさらにその先の闇の中へと消えていき、また「私」はひとりになる。

この世の中には自分ひとりしかいないかのような闇。いや、「私」も彼のように闇の中へと消えて、あとに残るのは無か。

そんな情景を梶井基次郎が「闇の絵巻」に書いている。何十年も前に読んだ本なのに、暗闇と街灯の明かりだけの絵が頭から離れない。

正体のわからない人とすれ違う「誰そ彼(たそかれ)」から月が出るまでの宵闇の時間に外を歩くことになった昔の人は、どんな不安な気持ちでいたのだろうか。ロウソクの心許ない灯でも、助けになったのだろうか。

町が明るくなって、日焼けした黒服のような赤茶けた色になってしまった夜空を見上げてそんなことを思う。

嘉永六年(1853)癸丑四月、村内安全、秋葉大権現。

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